投稿者: fuinlab_admin

  • 畳と土壁が、実は天然の空気清浄機だった

    うちのマンションを買うとき、リノベーションで和室を洋室に変えた。

    畳を剥がして、土壁をボードに替えた。それが「古くさいものを新しくした」という話だと、ずっと思っていた。

    でも最近、ある研究者と話して、少し後悔している。


    その人が教えてくれたのは、こういうことだ。

    昔の和室は、においを「換気で飛ばす」のではなく、「壁と床に吸わせていた」

    土壁の表面は、顕微鏡で見ると無数の小さな穴がある。蜂の巣のような、スポンジのような構造。においの分子がその穴に入り込んで、表面にくっつく。これが「吸着」という現象だ。

    畳も同じ仕組みを持っている。イグサという植物でできた畳表は、内部が管状の空洞になっている。1枚の畳のなかに、数百万個単位の小さな空洞があるとも言われる。においはその無数のトンネルに取り込まれていく。

    つまり昔の和室は、部屋全体が巨大なフィルターだったわけだ。


    ここで少し驚いたのが「湿度」の話だ。

    土壁とイグサは、湿気を吸ったり吐いたりする性質がある。乾燥しているときは水分を放出して、湿っているときは水分を吸い込む。これを「調湿」と呼ぶ。

    この調湿の動きが、においの吸着とセットになっている。

    空気中の湿度が変わると、においの分子の動きも変わる。壁や床が湿気を動かすたびに、においもいっしょに引き寄せられる。まるで潮の満ち引きのように、においを少しずつ取り込んでいく。

    機械のフィルターとは、根本的に違うメカニズムだ。


    「でも、吸い込んだにおいはどこへ行くの?」と聞いた。

    答えは少し意外だった。

    一部は壁の内部で分解される。土に含まれる微生物や鉱物が、においの分子をゆっくり変質させる。完全に無臭になるわけではないが、時間をかけて別の物質に変わっていく。

    一部は、天気のいい日に窓を開けると外へ出ていく。吸着は可逆的な現象で、条件が変われば分子は壁から離れる。昔の人が「風を入れる」ことを大切にしていたのは、こういう理屈があったのかもしれない。


    リノベーションで和室を消したとき、ぼくは気づかないうちに「天然の空気清浄システム」を取り除いていた。

    もちろん今の建材が悪いわけじゃない。でも、何百年も使われてきたものが、ちゃんと理由のある仕組みを持っていたという事実は、なんというか、静かに驚かされる。

    「古いから古くさい」わけじゃなかった。

    畳・土壁の吸着と調湿のより詳しいメカニズムは、研究記事で解説しています。

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