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  • 梅雨になると臭いが復活する理由

    去年の冬、やっと消えたと思っていた。

    あの、じわっとした湿っぽい臭い。

    ところが梅雨に入った途端、また戻ってきた。

    「壁、拭いたのに。換気もしてたのに。なんで?」

    これ、うちのマンションで実際に起きた話だ。

    臭いは「消えた」んじゃなかった

    最初、僕は臭いが「なくなった」と思っていた。

    でも、それは違った。

    臭いの正体は、壁の中に閉じ込められた臭気分子(=臭いのもとになる、とても小さな粒)だ。

    冬の乾燥した空気の中では、この粒が壁材の奥深くに「吸着(=表面にくっついて動けなくなること)」して、ほとんど空気中に出てこなくなる。

    だから臭わない。消えたわけじゃない。眠っているだけだった。

    湿度が「起こしに来る」

    梅雨になると、空気中の水分量が一気に増える。

    この水分が、壁の中でじっとしていた臭気分子を「押し出す」のだ。

    仕組みをざっくり言うと、こういうことだ。

    水の分子は臭気分子より壁の表面に「くっつきやすい」。

    だから湿度が上がると、水の分子が臭気分子を追い出して、自分がくっつく場所を奪う。

    追い出された臭気分子は、行き場をなくして空気中に飛び出す。

    それが鼻に届く。

    「あ、またあの臭いだ」となる。

    イメージはスポンジと水

    たとえ話をしよう。

    壁材を「古いスポンジ」だと思ってほしい。

    そのスポンジに、醤油(=臭気分子)が染み込んでいる。

    乾いている間は、醤油はスポンジの奥に留まって臭いがしにくい。

    でも水をかけると?

    醤油が押し出されて、じわっと表面に出てくる。

    梅雨の壁で起きていることは、これとほぼ同じだ。

    壁の面積を全部広げると、実はテニスコート1面分に近い表面積を持つ素材もある。

    それだけ広い「スポンジ」の中に、臭気分子が潜んでいたとしたら——梅雨に臭いが戻るのも、納得できないだろうか。

    「換気すれば解決」じゃない理由

    窓を開けて換気すると、一時的に臭いは薄まる。

    でも外の空気も湿っている梅雨時は、また水分が入ってきて、また臭気分子が押し出される。

    いたちごっこになる。

    根本的には、壁材の中にどれだけ臭気分子が蓄積しているか、そしてその素材が湿度の変化に対してどう反応するか、この2点が鍵になる。

    「拭いても換気しても臭いが戻る」という場合、表面の問題ではなく素材の構造の問題である可能性が高い。

    うちの壁が「そうなっていた」と知ったとき、正直ぞっとした。

    でも同時に、「じゃあどうすればいいか」も見えてきた。

    → 詳しいメカニズム——湿度が臭気分子を動かす「脱着(=くっついていたものが離れること)」の仕組みは、研究記事で解説しています。

    この研究について情報交換・ご連絡は keshisaru-g@keshisaru.com まで。

  • 梅雨になると臭いが戻ってくる謎、解けました

    去年の夏、うちのマンションで不思議なことが起きた。

    冬の間はまったく気にならなかった部屋の臭い。それが梅雨に入った途端、「あ、また来た」と思うようなにおいが戻ってきたのだ。

    換気もした。消臭剤も置いた。でも梅雨が明けると自然に薄れて、また冬には消える。これを3年続けた。

    「気のせいかな」と思っていたけれど、気のせいじゃなかった。壁が、においを「貯めて、放出する」という動きをしていたのだ。


    壁はにおいを「吸って、吐く」

    においの正体は、空気中に漂う微小な化学物質(=分子レベルの小さな粒のこと)だ。これが壁材の表面や内部にくっつく現象を「吸着」(=においが壁に取り込まれること)という。

    ここでポイントになるのが「湿度」(=空気中の水分の多さ)だ。

    乾燥した冬の空気の中では、においの粒子は壁にしっかり閉じ込められたまま動かない。ところが梅雨になって湿度が上がると、空気中の水分が壁材の内部に入り込んでくる。その水分が、眠っていたにおいの粒子を押し出すように壁の外へ追い出してしまうのだ。

    たとえるなら、スポンジに砂糖水を染み込ませて乾かしておく感じだ。乾いたスポンジは何も出さない。でも水をかけると、中に閉じ込められていた糖分がじわっと溶け出してくる。壁も、同じことをしている。


    「におい」の粒子はどれだけ小さいのか

    においの粒子は、髪の毛の約10万分の1のサイズしかない。これほど極小だからこそ、壁材の目に見えない細かい隙間にするりと入り込んでしまう。表面を拭いても取れないはずだ。においは「壁の奥」に住んでいる。

    だから表面だけに消臭スプレーをしても、根本的な解決にならないケースが多い。梅雨になるたびに「また来た」と感じるのは、この仕組みのせいだった。


    冬に消えるのも、同じ理由

    湿度が下がる秋から冬にかけて、壁の中の水分も抜けていく。水分が抜けると、においの粒子は再び壁材の奥に引き戻されて動かなくなる。だから冬は「においが消えた」ように感じる。消えたのではなく、また眠っているだけだ。

    うちの場合、3年間ずっとそれを繰り返していた。壁の中でにおいが「冬眠と覚醒」を繰り返していたのだと知ったとき、少し怖くなった。そして、もっと知りたくなった。


    湿度とにおいの関係は、壁材の「素材」によっても大きく変わってくる。どんな素材がにおいを吸いやすく、どんな素材が放出しにくいのか。そのメカニズムの詳しい話は、研究記事で整理している。

    → 詳しいメカニズムは研究記事で

    この研究について情報交換・ご連絡は keshisaru-g@keshisaru.com まで。

  • タバコのヤニは壁に「食い込んで」いた

    マンションオーナーの河合です。

    退去後の部屋に入ったとき、思わず言葉を失ったことがある。壁が黄色い。いや、「黄色くなっている」じゃなくて、もう壁そのものが黄色い、という感じ。雑巾で拭いたら一瞬きれいになる。でも乾くとまた浮き出てくる。まるで壁が汗をかいているみたいに。

    あのとき私は「汚れが残っている」と思っていた。でも、違った。

    ヤニは「乗っている」のではなく「染みている」

    タバコの煙には、ニコチンやタール(=煙の中に含まれる茶色い粘着物質のこと)が含まれている。これが空気中を漂って、壁の表面にたどり着く。

    ここで大事なのが、クロス(=壁紙のこと)の構造だ。一般的な壁紙は、表面がビニールでできているように見えて、実は無数の小さな凹凸がある。拡大して見ると、まるでスポンジのような微細な穴だらけだ。髪の毛の太さを100とすると、その穴の大きさは1以下、というレベルの話である。

    タバコの粒子(=煙の中の小さなつぶ)は、その穴にぴたりとはまり込む。乗っているのではなく、入り込んでいるのだ。

    なぜ拭いても取れないのか

    ここにもう一つの問題がある。タールは「油に溶ける性質」を持っている。水拭きだと、表面を少し流すだけで、穴の奥に入り込んだ成分はびくともしない。

    さらに時間が経つと、ヤニは壁紙の奥の「下地(=壁紙を貼り付けている接着層や石膏ボードのこと)」にまで到達する。こうなるともう表面を拭くだけでは追いつかない。壁紙を剥がしても、下から黄色いシミが出てくる。あの光景の正体が、これだったのだ。

    温度が上がると「また出てくる」

    もう一つ、知って驚いたことがある。一度染み込んだヤニは、温度が上がると再び表面に滲み出てくる性質がある。夏場に部屋が暑くなったとき、または暖房をつけたとき、「また黄色くなってきた」と感じた経験はないだろうか。あれは気のせいではない。壁が温められて、奥に閉じ込められていたヤニが外に出てきているのだ。

    鍋の中の油が冷えると固まり、温めると溶けて広がる。それと同じことが、壁の中でも起きている。

    「封印できる」とはどういうことか

    では、どうすれば壁からヤニが出てこなくなるのか。拭く、削る、塗る。いろんなアプローチがある。しかしどれも、ヤニの「染み込む性質」と「温度で動く性質」を無視しては意味がない。

    封印、という言葉がある。汚れを「取り除く」のではなく、「出てこられなくする」発想だ。私がこのラボを立ち上げたのは、この発想に出会ったからだった。

    → ヤニが壁の中でどう動くのか、封印がなぜ機能するのか。詳しいメカニズムは研究記事で解説しています。

    この研究について情報交換・ご連絡は keshisaru-g@keshisaru.com まで。

  • 畳と土壁が、実は天然の空気清浄機だった

    うちのマンションを買うとき、リノベーションで和室を洋室に変えた。

    畳を剥がして、土壁をボードに替えた。それが「古くさいものを新しくした」という話だと、ずっと思っていた。

    でも最近、ある研究者と話して、少し後悔している。


    その人が教えてくれたのは、こういうことだ。

    昔の和室は、においを「換気で飛ばす」のではなく、「壁と床に吸わせていた」。

    土壁の表面は、顕微鏡で見ると無数の小さな穴がある。蜂の巣のような、スポンジのような構造。においの分子がその穴に入り込んで、表面にくっつく。これが「吸着」という現象だ。

    畳も同じ仕組みを持っている。イグサという植物でできた畳表は、内部が管状の空洞になっている。1枚の畳のなかに、数百万個単位の小さな空洞があるとも言われる。においはその無数のトンネルに取り込まれていく。

    つまり昔の和室は、部屋全体が巨大なフィルターだったわけだ。


    ここで少し驚いたのが「湿度」の話だ。

    土壁とイグサは、湿気を吸ったり吐いたりする性質がある。乾燥しているときは水分を放出して、湿っているときは水分を吸い込む。これを「調湿」と呼ぶ。

    この調湿の動きが、においの吸着とセットになっている。

    空気中の湿度が変わると、においの分子の動きも変わる。壁や床が湿気を動かすたびに、においもいっしょに引き寄せられる。まるで潮の満ち引きのように、においを少しずつ取り込んでいく。

    機械のフィルターとは、根本的に違うメカニズムだ。


    「でも、吸い込んだにおいはどこへ行くの?」と聞いた。

    答えは少し意外だった。

    一部は壁の内部で分解される。土に含まれる微生物や鉱物が、においの分子をゆっくり変質させる。完全に無臭になるわけではないが、時間をかけて別の物質に変わっていく。

    一部は、天気のいい日に窓を開けると外へ出ていく。吸着は可逆的な現象で、条件が変われば分子は壁から離れる。昔の人が「風を入れる」ことを大切にしていたのは、こういう理屈があったのかもしれない。


    リノベーションで和室を消したとき、ぼくは気づかないうちに「天然の空気清浄システム」を取り除いていた。

    もちろん今の建材が悪いわけじゃない。でも、何百年も使われてきたものが、ちゃんと理由のある仕組みを持っていたという事実は、なんというか、静かに驚かされる。

    「古いから古くさい」わけじゃなかった。

    → 畳・土壁の吸着と調湿のより詳しいメカニズムは、研究記事で解説しています。

    この研究について情報交換・ご連絡は keshisaru-g@keshisaru.com まで。

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