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  • タバコのヤニはなぜ壁から離れないのか

    去年の秋、大阪市内にある自分の物件で退去後の部屋を確認したとき、壁紙を少しめくってみた。

    クロスの裏側が、薄茶色に染まっていた。

    「ああ、またか」と思いながらも、ふと疑問が湧いた。
    クロスって、表面が汚れるのは分かる。でも、なんで裏側まで?

    そこから調べ始めて、自分がずっと誤解していたことに気づいた。


    以前、私はタバコのヤニを「油汚れの一種」だと思っていた。だから「強いアルカリの洗剤で拭けばいい」という話を聞いて、それが正解だと信じていた。実際、表面の黄ばみはある程度落ちる。でも翌月にはまたニオイが戻ってくる。「施工業者がちゃんと拭いてないんだろう」と思って、何度か怒ったこともある。

    全部、的外れだった。

    タバコの煙に含まれる成分は、ニコチン・タール・VOC(揮発性有機化合物)など、数百種類にのぼると言われている。要するに、ものすごく細かい粒子と気体が混じった「複合汚染」なのだ。

    油汚れのような「表面に付着して固まる」という動きとは、根本的に違う。


    分かりやすく言うと、出汁を長年使い続けた木製のまな板を想像してほしい。表面を何度洗っても、木の内部に染み込んだニオイは取れない。タバコと壁の関係はあれに近い。

    壁の内側、特に石膏ボードは湿気を吸ったり吐いたりする性質がある。「呼吸する素材」などと言われる。空気調整の機能としては優秀なのだが、この「吸う」という動作が曲者で、タバコの分子もいっしょに引き込んでしまう。

    クロスを何枚張り替えても、壁の奥にある石膏ボードにヤニが染み込んでいれば、また少しずつ滲み出てくる。「モワッと甘ったるい、あの感じ」の正体がそれだ。

    「よし、クロス張り替えたから完璧なはず」と思ったら、入居者から「なんかタバコ臭い」と連絡が来る。私も経験した。あれは業者の手抜きでも何でもなく、構造上の問題だった。


    もう一つ、見落としがちなポイントがある。

    ヤニは「壁に当たって固まる」だけでなく、天井・エアコン内部・換気口のダクト・窓枠の溝など、空気が流れるルート全体に蓄積する。吸う→流れる→どこかに溜まる、という循環が部屋の中でずっと続いている。

    だから一箇所だけキレイにしても、残りの箇所から揮発が続く。

    パァッと消えてくれればいいのに、そうはいかない理由がここにある。

    ケシサルJapan株式会社でこのテーマを研究し始めたのも、元をたどればこの「なぜ戻るのか」という問いが出発点だった。表面を拭くことと、内部に染み込んだものを無力化することは、全く別の作業だ。その違いが分かってから、見え方がかなり変わった。

    → もっと詳しく知りたい人は研究記事へ

    この研究について情報交換・ご連絡は keshisaru-g@keshisaru.com まで。