去年の夏、うちのマンションで不思議なことが起きた。
冬の間はまったく気にならなかった部屋の臭い。それが梅雨に入った途端、「あ、また来た」と思うようなにおいが戻ってきたのだ。
換気もした。消臭剤も置いた。でも梅雨が明けると自然に薄れて、また冬には消える。これを3年続けた。
「気のせいかな」と思っていたけれど、気のせいじゃなかった。壁が、においを「貯めて、放出する」という動きをしていたのだ。
壁はにおいを「吸って、吐く」
においの正体は、空気中に漂う微小な化学物質(=分子レベルの小さな粒のこと)だ。これが壁材の表面や内部にくっつく現象を「吸着」(=においが壁に取り込まれること)という。
ここでポイントになるのが「湿度」(=空気中の水分の多さ)だ。
乾燥した冬の空気の中では、においの粒子は壁にしっかり閉じ込められたまま動かない。ところが梅雨になって湿度が上がると、空気中の水分が壁材の内部に入り込んでくる。その水分が、眠っていたにおいの粒子を押し出すように壁の外へ追い出してしまうのだ。
たとえるなら、スポンジに砂糖水を染み込ませて乾かしておく感じだ。乾いたスポンジは何も出さない。でも水をかけると、中に閉じ込められていた糖分がじわっと溶け出してくる。壁も、同じことをしている。
「におい」の粒子はどれだけ小さいのか
においの粒子は、髪の毛の約10万分の1のサイズしかない。これほど極小だからこそ、壁材の目に見えない細かい隙間にするりと入り込んでしまう。表面を拭いても取れないはずだ。においは「壁の奥」に住んでいる。
だから表面だけに消臭スプレーをしても、根本的な解決にならないケースが多い。梅雨になるたびに「また来た」と感じるのは、この仕組みのせいだった。
冬に消えるのも、同じ理由
湿度が下がる秋から冬にかけて、壁の中の水分も抜けていく。水分が抜けると、においの粒子は再び壁材の奥に引き戻されて動かなくなる。だから冬は「においが消えた」ように感じる。消えたのではなく、また眠っているだけだ。
うちの場合、3年間ずっとそれを繰り返していた。壁の中でにおいが「冬眠と覚醒」を繰り返していたのだと知ったとき、少し怖くなった。そして、もっと知りたくなった。
湿度とにおいの関係は、壁材の「素材」によっても大きく変わってくる。どんな素材がにおいを吸いやすく、どんな素材が放出しにくいのか。そのメカニズムの詳しい話は、研究記事で整理している。
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