先月、堺市のマンションで壁紙の張り替え工事に立ち会った。
職人さんが石膏ボードの断面をカッターで切ったとき、断面がものすごく細かい粒粒で構成されているのが見えた。砂糖を固めたような感じ、とでも言えばいいか。「これ、スカスカじゃないですか」と思わず声に出してしまった。
以前は、壁というのは「固体の板」だと思っていた。触れば硬いし、叩けばコツコツ鳴る。固体=隙間がない、という思い込みが自分の中にずっとあった。
でも本当にそうなのか?
石膏ボードを顕微鏡レベルで見ると、無数の微細孔が走っている。要するに、表面は「面」ではなく「穴だらけのスポンジ状の構造」だということだ。平らに見えているのは目が粗いだけで、ミクロで見れば洞窟が密集している。
では、壁1㎡の本当の表面積はどれくらいか。
材料科学の研究では、多孔質素材の「真の表面積」は外から見える面積の数万倍から数十万倍になることがある。計算の仮定によって数字は変わるが、石膏ボード1㎡の真の表面積が数千㎡に達するという話は、素材の世界では珍しくない。
東京ドームのグラウンド面積が約1.3万㎡。
つまり壁1枚の中に、それに匹敵するような表面積が折り畳まれている可能性がある。「かもしれない」と書きたいところだが、数字の桁が合っているのだから、事実として向き合うしかない。
カステラを想像してほしい。外から見れば長方形の一塊だが、断面には無数の気泡がある。あの気泡の内壁をすべて広げたら、外から見た表面積の何倍になるか。石膏ボードで起きているのはそれと同じことで、しかも気泡の大きさがカステラより遥かに小さい分、表面積の倍率はケタ違いになる。
「で、それが何なの?」と思う人がいるのはわかる。
匂いの分子は、この無数の穴に入り込む。
タバコのヤニでも、孤独死の現場のニオイでも、揮発した成分は空気中を漂った後、行き場を求めてこの微細孔に潜り込む。表面積が大きいほど、吸い込める量も増える。東京ドーム何個分の内壁に、ニオイの分子が貼り付いているとしたら——消臭スプレーを壁の表面にシュッとかけるだけで解決しようとしていた自分が、いかに的外れだったか。
「よし、これで消えたはず」と思っていた。何度も。
そのたびに数日後にモワッと戻ってくる理由が、今はわかる。
この研究について情報交換・ご連絡は keshisaru-g@keshisaru.com まで。
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