乾式工法が日本を変えた日

執筆者:

カテゴリ:

去年の秋、堺市の築38年マンションを売却するために内見準備をしていた。

リフォーム業者と壁を叩きながら回っていたとき、職人さんが「ここ、石膏ボードですわ」と言った。「あ、そうですか」と答えながら、私は正直そのとき何も考えていなかった。

石膏ボード。当たり前すぎて、疑問に思ったことすらなかった。

でも後から調べたら、あの「当たり前」が生まれたのは、ほんの50〜60年前の話だと知った。


昔の日本の内壁は「湿式工法」といって、左官職人が泥や漆喰を何層にも重ねて塗り上げるものだった。乾くまでに何日もかかる。湿気を吸って、吐いて、呼吸する壁だ。手間がかかる分、職人の技術と時間がそのまま壁に詰まっていた。

それが高度経済成長期に変わった。

「乾式工法」の登場だ。要するに、あらかじめ工場で作ったパネル(石膏ボードが代表格)を現場で貼り付ける工法のこと。乾かす時間がいらない。職人の腕に左右されない。早い、安い、均質。そういう話だ。

住宅の大量供給が求められた時代に、これは革命だったのだと思う。


以前の私は「壁なんて、どれも同じようなもの」と思っていた。

マンションを買うとき、売るとき、ニオイの問題が起きたとき、壁の「素材」そのものを気にしたことがなかった。でも今は違う。特殊清掃の現場を10年以上経験してきて、ようやく気づいた。ニオイが消えない部屋と消える部屋の差は、清掃の腕だけじゃない。壁の素材と構造に関係している場合がある。

石膏ボードはスポンジに似ている。

水分を吸う。ニオイの成分も吸う。表面だけを拭いても、ボードの内部に染み込んだものは取れない。風呂のスポンジを外側だけ絞っても、中がじっとり重いままなのと同じだ。

乾式工法の壁が「早く、安く、均質に」作れる一方で、こういう弱点も一緒に抱えている。


「よし、消臭した。合ってるはず」と思った翌週に、モワッとニオイが戻ってくる。

あの不思議な現象の一端が、実は壁の工法と素材に隠れていたとしたら——。

私はこの数年、そこをずっと考えている。

→ もっと詳しく知りたい人は研究記事へ

この研究について情報交換・ご連絡は keshisaru-g@keshisaru.com まで。

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です