ピラミッドの壁と、うちのマンションの壁は同じだった

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去年の夏、入居者が亡くなった部屋の原状回復をしていて、業者の人間から�妙なことを言われた。

「この壁、石膏ボードですよね。石膏って、実はピラミッドにも使われてたんですよ」

そんな話、急に言われても。

でも気になって、その夜ちょっと調べてみた。本当だった。古代エジプトのピラミッドの内壁、あの石の継ぎ目を埋めていた素材が、硫酸カルシウムを主成分とする石膏系の材料だというのだ。要するに、4500年前から人間は「壁を平らにするのに石膏を使っていた」ということになる。

それを知った瞬間、自分のマンションの壁が急に違って見えた。

現代の建物の壁は、ほとんどの場合「石膏ボード」が使われている。石膏に紙を貼り合わせた板で、軽くて加工しやすい。コストも安い。だから日本の住宅のほぼすべてに入っている、と言っても大げさではないくらい普及している。自分が持っているマンションも、全室そうだ。

ここまでは知っていた。

知らなかったのは、石膏がどういう素材かということだ。

石膏は多孔質、つまり細かい穴が無数にある。スポンジみたいなもの、と言えばわかりやすいか。湿気も吸う。においも吸う。調湿効果があると言われて、昔は「身体にいい素材だ」と思っていた時期もある。

でも、吸うということは、溜め込むということでもある。

「よし、消臭した。これで大丈夫なはず」と思っても、しばらくするとモワッとにおいが戻ってくる。あの感覚、特殊清掃の後に何度経験したかわからない。以前は「業者の消臭が甘かったんだろう」と思っていた。でも実は違った。壁の中に吸い込まれたにおいの分子が、時間をかけてじわじわと放出されていたのだ。

炊き込みご飯を作った後の鍋を洗い忘れて翌朝開けた時のあの感じ、あれに近い。密閉された空間に、じっくり染み込んだものが出てくる感じ。

石膏ボードの壁は、においを一度受け取ると、なかなか手放さない。

ピラミッドの壁が何千年も残っているのは、石膏が安定した素材だからだ。安定しているということは、中に取り込んだものも、簡単には出ていかないということでもある。

4500年前から変わっていない素材が、自分の部屋の壁に貼ってある。そう思うと、においが「染み付く」という感覚が、急にリアルになった。

→ もっと詳しく知りたい人は研究記事へ

この研究について情報交換・ご連絡は keshisaru-g@keshisaru.com まで。

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